Shonan iParkのトップリーダーたち。同じShonan iPark内で働いていても顔や人柄まで知らない方も多いはず。このコーナーでは、「最近読んで面白かった本」を切り口に、トップリーダーの経験やキャリア感を伺います。第1回目となる今回はAxcelead Drug Discovery Partners株式会社の池浦義典 代表取締役社長にインタビューをお願いしました。ご紹介頂く本は『RANGE知識の「幅」が最強の武器になる』です。
―どのようなきっかけでRANGEを読まれたのでしょうか。
コロナ禍になってから社外のいろんな人と1on1をする機会を作っていて、その時は必ず「最近読んだ本で面白かった本、ためになった本はありますか?僕に本を勧めてください」と質問するようにしています。そうすると結構盛りあがって30分ほど語ってくれることが多いんですけど笑。今回のRANGEに関してはフィリップスの相澤さんに紹介してもらいました。今年の5月に1on1で紹介いただき、6月に読み終わったかな。
―どのような内容が印象的だったのでしょうか。
個人のキャリアを考えた時に知識とか専門性は深い方がいいの?それとも幅が大事なの?どっちなの?って疑問って湧くじゃないですか。研究者として会社の中で仕事していると基本的には1つの分野で仕事しているので専門性を深める方にいきますよね。それはそれで楽しい。でも自分の5年後10年後考えた時に、専門性だけでいいのかなってどこかで疑問が湧きますよね。その問いに対して著者なりに答えを出している本。結論から言うと、知識の幅がこれからの時代に特に大事になると言う考えが、自分の考えとも一致していてすごく面白いと感じました。
―キャリアの話がありましたが、池浦さんのご経歴の中で専門性の深さと幅はどのように変化してきましたか。
いい質問ですね。僕自身のキャリアを振り返ってみると意図して専門性の幅を広げようとしたことはありません。将来社長になろうとは思っていなかったし、基本的には与えられた目の前の仕事に取り組んでいた。ただひょっとして他の人と違ったのかなと思うところは、興味の幅が広くて全然違う分野にも興味を持ったこと。20代で公認会計士の資格取ったろうかなって思って本買って勉強したり。かといって資格を得た訳でもないんだけど、そんな感じで全然違う勉強を何かしらずっとやってました。意識的に広げようというわけではなくて自然と興味の範囲が広がっていきました。会社での研究実務の中でも少しづつ幅が求められるようになっていきました。研究をばりばりやっている若いうちは目の前の研究に一生懸命取り組むことでいいじゃないですか。でも例えば化学合成をやっていても薬理のことも知りたくなる。薬理の本を読んでみたり、薬物代謝、QSAR(定量的構造活性相関)とかも。僕の専門は化学合成なんだけどそれをやっていく上で知っておいた方がいいだろうなって思うことは幅広く勉強していたように思う。あまり偉そうには言えないけど笑。
―私たちのような若手社員に向けて幅をどのように広げたらいいのか、もしくは若手のうちは専門性を深めた方が良いのか、社長というポジションからアドバイスをお願いします。
僕は最初から幅を広げていった方がいいと思いますよ。専門分野の勉強って仕事上絶対するじゃないですか。興味もあるだろうし。なので専門外とか専門性の横幅を広げるために何をするかを意識していたらいいんちゃうかなって。
―研究者ならではのアドバイスですね。
じゃあ、どう広げるか。広げようとしたらどんな方向にでも広げられるよね。例えば合成やっている人が薬理の勉強とか、中堅になったらマネジメントを学んだり。チームメンバーの一員としてもチームマネジメントを勉強しておいた方がいいだろうし、そういうのも横幅を広げることにつながる訳だし。
あと本を読んでいてもう一つ思ったのは文化・価値観の怖さ。
同じ会社の中、同じ専門分野の中にずっといたらそこのロジック(カルチャー)が全てになってしまう。他から入ってきた人から「何で?」って言われた時に「いや昔からやっていたから」としか説明できなかったりとか、意外とそういったところで自分たちの思考の幅を狭めていたり、それによって最適な解をはなから除外していたり。
―そういう想いもあって、Axceleadの社員のみなさんに社外の方と話す機会を提供していたりするんですね。
そうですね。異なる視点、異なるものの見方みたいなところとか、それって中に居ただけじゃ得られないから。ほんとは海外とか異なる環境に身を置くともっといいんですけどね。僕自身価値観変わったなって思ったのは、海外の人と密接に仕事をやり始めてからで。そうすると価値観が根底から崩されたりするじゃないですか。「なんで?」って言われて、いやなんでって言われても前からこうやってたからだって・・・。前からやっていたやり方を正当化するために、後付けで理由をつけている自分がいたんですよ。自分がおかしいなって振り返る機会になったなって感じます。
―海外の方の価値観に多く触れるようになったのはどのタイミングですか?
価値観が変わったのが留学してた時と武田の中でグローバルに仕事をしだした時。
留学はMITに行ってその時にメンターをしなさいということで、新しく入った学生にメンターをすることになった。その学生に実験とかをメンタリングする中で、まあ面倒臭いことになんでもかんでも「何で?」って聞くんですよ。「こうした方がいいよ」っていうと「なんで?」って。それは彼のいいところだけど笑。あとは学生が教授に「先生それ違うと思います」って平気でいうところ。大学の授業も出てたんですけど、学生は平気で教授にチャレンジしますからね。なかなかいい経験になって、自分自身振り返って何が適切かを素で考える。自分自身の考え方に固執してそれを押し通すようなディスカッションではなくって、一回ゼロベースにして相手の意見を受け止めた時に本当に自分の考えは正しかったのか、修正する余地はないのか、振り返る機会は得られたと思う。
あとは武田の中でグローバルに仕事した時に、リサーチでありながら開発とかCMC含めて
領域戦略立ててディスカッションしないとならない。そうすると人によって見てる視点が違うのでめちゃくちゃディスカッションがしんどい。海外は日本よりも素でものを考える文化があるから、彼らが前の会社でやっていた価値観とかやり方とか持ち込んでるケースもあるのでよくぶつかっていた。
―海外への留学や海外との仕事を通じて、私たちが日本で働く上で気をつけたいことはありますか?
日本で最も課題なのは考えてはいるんだけどアクションを起こさないこと。いいと思うんだったらやったらどんどんやったらいい。誰がやるべきなんて関係ない。大事だ、必要だと思うことはどんどん行動を起こしたらいいと思う。
それ全部身に付きますからね。人の仕事を手伝っても。こうした方が良いのにな、上司が、周りの誰かがこうしたら良いのにな、という前に自分ができることってたくさんあるんじゃないかって思う。また、ネットワークを広げるのも待つんじゃなくて自分から広げていけばいいんじゃないのって思う。やりすぎたら負荷になるけどね。ただ時間は生み出すもの、生み出せるものだと僕は思うので。余裕の時間ができたらやろうって思ってたら絶対できない。実験でも何でもそうだけど、とにかくやろうと思ったことは最大限詰め込む。120%詰め込めば、多分その120%は100%でできるようになります。人間って適応能力があるので。キャパを増やすためにも自分を時間的にストレッチさせた方がいいと思います。
―最後に、池浦さんが本を読まれる際に意識されていることを教えてください。
多分本の読み方って人によって違うんじゃないかなあ。楽しむために本読むことってあるじゃないですか。あるんだけども、どうせだったら楽しみながらそれ自身を自分自身の学びにしたいところがありますよね。ビジネス書でもテレビでも小説でもドラマでもそうだし、何か自分に取り入れられるところはないかなと常に思いながら本を読んでます。本を読んだ内容をいかに自分のなかで抽象化された概念にするか。逆に抽象化されたコンセプトみたいなものが書かれていたらその概念って具体的にどういうことなんだろうって自分の立場に置き換えてみると。そんなことを意識してるかな。つまり抽象と具体を行ったり来たりさせることによって、自分の立場に置き換えた時にどうなるか、自分が生かそうとした時にどうなるかっていうのが本を読むときのベースになっているように思います。繰り返しになるけど、RANGEもすごくいい本でもちろん全部を読んでいるけれど、意識して記憶に残しているのはごくごく一部。面白いなとかこの辺りって自分なりに参考にできるなっていうのをピックアップし、自分の解釈を交えながらメモとして残している。なので僕のメモとRANGEが言いたいことがひょっとしたら違っているかもしれない。自分なりの解釈なんでね。
池浦さんが持ち歩く手帳。本を読んで気になった箇所をメモしているのだとか。キャッチーなキーワードとともに自分なりにどう解釈したのか、他の人にどう伝えたいのかという視点を必ず入れる。そうすると何年も前のメモでも本を読んだ当時に感じたことを思い出せるのだとか。