前書き
言わずと知れたノーベル文学賞作家、カズオ・イシグロ氏の受賞後第一作です。詳しい解説や背景説明は専門の方にお願いすることにして…
ここでは、私が読後にどう感じたかに焦点を置いてご紹介します。
感想
本作の内容は、シンプルに言ってしまえば、ある少女のもとに友達としてやって来たロボットの成長物語です。少女自身もロボット自身も様々な経験を積んでいくのですが、その過程ひとつひとつが濃厚に描かれています。
具体的なエピソードは省きますが、読みながら、私自身の子供時代を客観的に思い出していたことに気づきました。
例えば、子供心ながらにこれをやり遂げるのは大事(おおごと)だ、とか、この手順はとても大切だ、と思っている事柄が結構あったなということ。そしてそれは今振り返ると全く些細であること。
さらにその事柄に対して精神的に、かつ物理的に一生懸命犠牲を払ってみても、自分を取り巻く世界には、実はほんの少しの影響も加わっていなくて、日常は淡々と進むこと。
でも後から振り返ると、なんだかそういう個人的なほろ苦い経験が私自身を作っているんだな、もしかしたら成長とはそれに気付けることなのかもしれない、と思ったこと。
おすすめポイント
カズオ・イシグロ氏の著作は、読者目線の丁寧な説明調ではない、という独特の作風があると思います(数少ない私の読書経験を基にしているので、違ったら恐縮なのですが)。
本作も、ロボットならではの世界の捉え方を描いた表現を理解するのが難しく、最初はもやもやを抱えたままでした。それでもぐっとこらえてどんどん読み進めていくことで、いずれもつれた糸が解きほぐされる、という世界観を楽しむことができます。
HARU