考える

世界史を変えた薬

「今の仕事以外にどんなキャリアがあるのだろうか」

考えたことが無い人はいないでしょう。

周りを見れば薬の研究者から化粧品の研究者になったり、あるいは研究者からコンサルタントになったり、私の会社の過去を遡るとアナウンサーになったなんて人もいます。

さて、今回の著者は製薬企業の研究者からサイエンスライターになった佐藤健太郎さんです。

『医薬品クライシス』『炭素文明論』といった科学にまつわる著作から、国道マニアとして知られることから『ふしぎな国道』という本まで書かれています。

きっと知的好奇心が抑えられずに会社を飛び出したのかな…と勝手に妄想してしまいます。

タイトル世界史を変えた薬(Kindle版)
著者佐藤健太郎
出版社講談社
発売日2015/10/20
ページ数169ページ(Kindleのページ数)
読んでほしい人薬に関わる仕事をしている人

本を手に取った理由

今回御紹介するのは『世界史を変えた薬』。

本を読みたいと思ったのは、お恥ずかしながら仕事の悩みからです。

私も製薬企業の研究者ですから、「世界史を変える」とはいかないまでも患者さんを助ける新薬を生み出すために働いています。

しかし、新薬を生み出す仕事は多くの研究者、開発者、製造関連や薬事関連などなど数百人の人々が力を合わせて、やっと達成できるかどうかという仕事です。

そんな大きな組織のちっぽけな私という存在が、一体世の中にどれほど役に立っているのだろう、薬を作るって一体どういうことなんだろう。

そんな悩みに対して自分なりに答えを出したいと思い調べていたところ、この本に行き着きました。

本の概要

タイトルの通り、いくつかの疾患に絞って歴史と医薬の関りについて書かれた本です。

ビタミンC, キニーネ、モルヒネ、麻酔薬、消毒薬、サルバルサン、サルファ剤、ペニシリン、アスピリン、エイズ治療薬、イベルメクチンといった薬について取りあげています。

「もしクレオパトラの鼻がもう少し高かったら」という”if”の問いかけは有名ですが、「もしコロンブスやマゼランがビタミンCを知っていたら」「もし特殊なアオカビの胞子が、ロンドンの病院のあるシャーレに飛び込んでいなかったら」といった仮定を想像し、医薬品が歴史に与える影響について考察されています。

本の感想

歴史を振り返ると、新薬のインパクトの大きさを感じずにはいられませんでした。

現在は2021年、もちろんアンメットニーズは数多く残されているものの、ペニシリンが世の中に与えた影響を超えるほどのニーズは残されていないのではと考えてしまいます。

一方で、この1, 2年間にコロナウイルスが世の中に与えた影響は間違いなく世界史に刻まれるでしょうし、そのワクチンが果たした(果たしている)役割も歴史に残ると思います。

過去に比べると新薬作りは個人戦から大きなチーム戦に変わっていますが、その役割の大きさには変わりないのかもしれません。

自分はちっぽけだなぁという私の悩みが解消されたわけではありませんが、この本を読んだおかげで、少し引いた目で仕事を俯瞰できるようになった気がします。

有名なたとえ話として、レンガ職人の話があります。

あるレンガを積んでいる人に何をしているのか問うと「見て分からないのか、レンガを積んでいるんだ」と死んだ目で答え、同じ作業をしている別の人に問うと「歴史に残るような大聖堂を作っているんだ」とキラキラした目で答えた、という話です。

同じ作業でも、目的を持っているのか、仕事の意味を考えているかで随分心持ちは変わってくる。

そんな当たり前のことを思い出させてもらえた本でした。

Hideaki

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