概要
1919年に新聞への連載として発表された小説で、青年2人と、女性1人をめぐる恋物語です。
脚本家野島と、新進作家の大宮は、厚い友情で結ばれている。野島は大宮のいとこの友人の杉子を熱愛し、大宮に助力を願うが、大宮に心惹かれる杉子は野島の愛を拒否し、パリに去った大宮に愛の手紙を送る。野島は失恋の苦しみに耐え、仕事の上で大宮と決闘しようと誓う――青春時代における友情と恋愛との相克をきめこまかく描き、時代を超えて読みつがれる武者小路文学の代表作。
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おすすめポイント
日本文学で恋にまつわる話、しかも2人の男性と1人の女性がメインである小説は、例えば「金色夜叉」、「浮雲」が思い浮かびます。
あくまで、私の完全な主観的な読書経験に照らし合わせているので、もっと代表的で適切な例があったら恐縮ですが…。
個人的には、上記の2作品は登場人物の人生を描くにあたって、恋や結婚のエピソードにかなりウエイトを置いて描写していると思います。
それに対して、今回紹介する「友情」は少し異なる印象を受けました。始めは、主人公のある女性に対して心が惹かれ始めた様子、そして思いが募り、三角関係に発展し…という流れが描写されます。
その後、主人公・野島は恋敗れてしまうものの、そこで終わることなく、相手の大宮に対して、「目の前の仕事で『決闘』しよう」と高らかに宣言する視点が盛り込まれているのがユニークでした。
感想
実際の人生においては、恋に限らずつらい思いをしても、自分の思い通りにいかなくて悔しくても、人生の時間はとめどなく流れていくと思います。
ですが、そのつらさや悔しさだけに身を任せているわけにはいかず、何とかして生活の方向を定めて、社会に身を置くために何かしら活動をしなくてはなりません。
特に恋愛というファクターは、自分の思い通りにならない「他人」という不確実な要素が多くを占めると思います。そのファクターがうまくいかなくなったときに、やり場のないエネルギーを打ち込む先として、「仕事」という観点が出てきたことが新鮮に感じました。
最後に、心に残った二つの言葉を紹介します。
クライマックスのシーンでのセリフですので、ネタバレになる内容かもしれませんが、古典文学であり、結末も有名であることを踏まえて、紹介致します。
- 大宮「我が愛する天使よ…お前の赤坊からの写真を全部おくれ。俺は全世界を失ってもお前を失いたくない。だがお前と一緒に世界を得れば万歳、万歳だ。」
- 野島「僕は寂しい。僕は仕事にかじりついている。無理にも仕事にかじりついている。そして自分の淋しさに打ち克とうと思っている。しかし淋しい。」
HARU