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原田マハの『たゆたえども沈まず』~美術館とは違う、名画の新しい鑑賞法~

紹介する本「たゆたえども沈まず」原田マハ 著、幻冬舎、2017年10月25日 発売
読んだ時期2021年9月(もくもく会でも紹介しました。)
読んだきっかけ読書会メンバーから勧められて、アートフィクションというジャンルに興味を持ったため。
おすすめ層名画の背景にあるストーリーを知りたい方。19世紀末のパリの雰囲気に浸りたい方。装丁のきれいな本を手に取りたい方。
ここが伝えたいゴッホの名画が生み出された背景について、史実とフィクションを交えながら書き進められた小説です。言わずと知れた名画にも、こんなストーリーがあったかもしれないと想像力が膨らむ一冊です。

概要

19世紀末のフランスで日本美術を売りさばく画商と、名前を知られていなかった時代のゴッホの出会いを中心にした小説です。

日本の浮世絵が当時の画家や世間に与えた影響について、パリで暮らす人々や街並の様子を交えて、流れるように書き進められています。

誰も知らない、ゴッホの真実。 天才画家フィンセント・ファン・ゴッホと、商才溢れる日本人画商・林忠正。 二人の出会いが、〈世界を変える一枚〉を生んだ。 1886年、栄華を極めたパリの美術界に、流暢なフランス語で浮世絵を売りさばく一人の日本人がいた。彼の名は、林忠正。その頃、売れない画家のフィンセント・ファン・ゴッホは、放浪の末、パリにいる画商の弟・テオの家に転がり込んでいた。兄の才能を信じ献身的に支え続けるテオ。そんな二人の前に忠正が現れ、大きく運命が動き出すーー。『楽園のカンヴァス』『暗幕のゲルニカ』の著者による アート小説の最高傑作、誕生! 2018年 本屋大賞ノミネート!

出展:幻冬社HP

構成

本を手に取ってまず目に入るのが、表紙に描かれているゴッホの「星月夜」。そして裏表紙には歌川広重の「大はしあたけの夕立」。

この本に関する前提知識がなくても、本作のテーマはゴッホの絵と、彼に影響を与えた浮世絵かな、と予想できます。しかし、いざ読み始めるとなかなかゴッホ本人は登場しません。

さらに、章の見出しが「一八八六年 一月十日 パリ 十区 オートヴィル通り」のように、年月と場所というシンプルな表記のみです。目次を読むだけでもなかなか展開が予想できません。

文章もあくまで淡々と進みますが、読み進めるうちに、パリという美しい街の季節感、また取り扱われる名画の様子が目の前に広がるような表現に、いつの間にか引き込まれていきます。

おすすめポイント

この本の特徴として、解説がついていないことが挙げられます。巻末には「この作品には史実をもとにしたフィクションです」と明記されているのみです。

作品中ではゴッホという実在の名画家を扱っていますし、登場する絵画も世界の美術館で鑑賞できるので、本作中の史実について何かしらの解説が付記されているのではないか、と期待してしまいます。

ただ、客観的な解説なしに、まず自分で読んだり見たりした感想を楽しむ経験もおもしろいなと思いました。本だけでなく絵画や映画、芸術作品全てに共通するかもしれませんが。

読み進めた内容のどこが史実でどこがフィクションなんだろう、と読後に自分で調べたくなる、そんな想像力と知的好奇心がくすぐられる読書体験でした。

HARU

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