Shonan iParkのトップリーダーたち。同じShonan iPark内で働いていても顔や人柄まで知らない方も多いはず。このコーナーでは、「読んで面白かった本」を切り口に、トップリーダーの経験やキャリア感を伺います。この記事をきっかけにShonan iParkメンバーを知る機会になればと思います。第2回目となる今回は田辺三菱製薬株式会社の林義治 創薬本部長にインタビューをお願いしました。ご紹介頂く本は『決断の本質 プロセス志向の意思決定マネジメント』です。
―ご紹介いただいた「決断の本質」はどのようなきっかけで読まれましたか?
きっかけをあんまり思い出せなかったんだけども、多分本屋で見かけて読んでみようとなったのだと思うんだよね。本自体は結構昔に書かれたもので、読んで面白いな、こういう考え方があるんだなと思って。実は2016年くらいに研究所の一部署を任された時に、何か本を紹介してほしいと言われた時にもこの本を紹介したんです。
―仕事における「決断」というとリーダーの方に向けた本なのかと思いました。
なるほど。
確かにその面もありますが、この本についてはリーダーに限らず、色々な立場の人に読んで頂いた方がいいかなと思っています。何がいいかというと、色々な仕事をしている中で決断すべき局面がリーダーだけでなく万人にあると思うんですよね。非常に大きな決断をしないといけない時に、いろんな人を巻き込んで決断していくことの重要性を基本として書いてあるんだよね。
―どのような内容が印象的だったのでしょうか。
リーダーっていうのは、そもそも一人で孤独に最後のスイッチを押すみたいな、非常に重いミッションを抱えているようにみなさん思っているかと思います。この本に書かれているのは、研究のような新しいことをする時に絶対的に正しい判断はないでしょ、ということです。では判断する上で重要なことは何かって言ったら、「判断するその過程を皆で話し合って、納得のいく過程に基づいて結論を出すとこが重要だよ」って書いてある。仮にその決定が間違っていたとしても、皆で納得して決めたことだから判断する過程自体は正しかったということになる。また、皆がアイデアを出しあうことで、一つの方向だけでなく色々な観点から議論を深められて、結果的により確からしい方向に向かうことができる。その2つのポイントが非常に大きいなと思います。
リーダーの言うことだったらついていこうかと期待してしまいがちですが、リーダーだからといって全て正しい判断ができるかと言われたら、そうではないよね。みんながリーダーの判断を期待しすぎると、リーダーの負担感は増すだろうと。でもその決断の過程を皆で納得した形で決断すれば、その決断や結果を皆受け入れるだろうという、リーダーにとっても気が休まるような主張も含まれています。そうすることで思いっきり決断して動いていけるのではないかなと思います。
―一人で全て責任を負って全て決めなければいけないっていう訳ではなく、決断のプロセスを決定するっていうのがこの本で言う本質ということですね。
そうですね。この本には決断にあたって色々なメンバーが議論する方法も書かれていますね
―この本はノウハウやマインドだけでなく、How to本に近い部分もあり読みやすかった印象です。
そうですね。実際に過去に起きた事例もありましたね。失敗事例と対比しながら、うまくいった事例を取り上げて説明しているので非常にわかりやすいかなと思います。例えばケネディーのキューバ危機を乗り越えた時の決断のやり方は面白いなと思っていて、これはいわゆる「悪魔の代弁者を置く方法」ですね。悪魔の代弁者を置くとは、とにかく難癖をつけて「本当にそれでいいのか」という役割を決裁者の信頼が置ける人間にやらせるということですね。有名な方法ではあるとは思うのですが、実際に国レベルの決断でもこの方法は有効なのだなと思いました。
―国レベルの大きな組織で悪魔の代弁者をおき、正しい決断ができたので、社内でも小さな研究チームでも使えるような気がします。
そうですね。ただ気をつけてほしいのは、悪魔の代弁者を意思決定者がやってしまうと意思決定者に対する忖度が出かねないので、意思決定者の信頼の置ける第三者にその役割をやらせることです。
―他にもプロセスの中であえて対立を作るという内容がありました。林さんがあえて対立を起こしているような事例はありますか?
対立というか異なる意見をぶつけあうことは必要だよねとは思っています。これは研究所として大きな方向を決める時も、日々みなさんが行なっている研究の進め方一つをとっても意見をぶつけるのは大切だと思います。先ほども言いましたように、研究は不確定なものなので絶対的に正しいことはないですよね。だからこそ色々な専門家が集まって、それぞれの専門性から意見を出し合って大きな案を3つ4つあげて、それぞれについて検討させると、相手や自分の主張している良いところと悪いところが客観的に浮かび上がり新しい発想につながると思います。だから対立という言い方が適切かわからないですけども、違う意見を戦わせるということは決断のプロセスにおいて非常にいい方法だと思います。
一方で、真っ向からぶつかった時に、本当の課題や我々の目的とは何だったんだろうと一度引いて考えてみることも大切ですね。
他にも、利害関係のある方がいるとした場合はなかなかことが進まないことがあるとおもんですねよ。そうした場合は第三者の仮想の敵を作るとかね、その敵を一緒にやっつけに行きませんかと提案すると、利害関係でもめていた2人も同じ方向を向くことができるとかね。そういうやり方もあるかなと思います。
―最後にこの記事を読んで頂いている皆さんに向けて、本を通して伝えたいことがあれば教えてください。
僕がこの本を紹介したのも、日々みなさんが色々なことを決める過程で非常に不安に思っているのではないかと思ったからです。大きい小さいの基準は人それぞれですが、みなさん色々な日々決断をしていくと思います。そうした時は一人で全部を決めなくてもいいんだよと。そこを押さえておけば思い切って決断できるのではないかなと思います。その決め方にこだわればいいんだと、出てきた結果は神のみぞ知るというものかもしれない。特に研究のように絶対的に正しいものがわからない世界を扱っているみなさんにとって、そのような考え方は大事なんじゃないかな。
―ありがとうございました!
どんな結論であろうと100%全員が納得することはありません。ただ、皆でその結論に至るまでの決め方に納得さえできていれば、出てきた決定に対してあとはみんなで向かうだけだ。そのコンセンサスはしっかりやるべき。だからこそ徹底的に決める過程を重視するんだと説く本です。
※役職名はインタビュー当時のものです